銀の風

一章・新たなる危機の幕開け
―7話・五英雄に明かすリア帝国の前歴―



この世界でもっとも強大な軍事力を誇る、バロン国の城。
堅固かつ、高い石の壁と深い堀が張り巡らされ、門の前には屈強な兵士と、守りは強健だ。
石造りで、城砦のような構造の建物の奥、2本の塔の左側。その最上階に、セシルとローザの私室がある。
部屋には大きな絨毯が敷かれ、壁には実用できる強力な剣と盾がかけられている。
また、ランプの覆いは珍しい工法で作られている貴重品。
しかし、その他に豪華な調度品は全くといっていいほどなく、王と王妃の部屋という割には、かなり質素だ。
「俺のとこより地味だな……。」
「ん、あんた城に住んでるの??」
リトラのぼやきに、アルテマが思わず聞き返す。
「リトラはんが偉いわけないやろ。そないな身分高いお方が冒険するとおもうん?普通せんやろ。」
「確かに・・ね」
アルテマは、納得してうなずいた。
「リア・・俺の故郷だと、城の入り口あたりまでは入れるんだよ。
民の意見も聞けるように〜とかいってな、要求書いた紙入れて出す箱があんだ。
さすがにその奥はしらねーよ。」
リア帝国は、ルーン族という種族がわりと穏やかで理性的なため、反乱は起きた事がない。
それは、王の善政が一番の理由だが。ともかく、王宮はわりと出入りが自由なのだ。
「二人とも、話をしてもいいかい?」
椅子に座っているセシルが、二人に呼びかける。
あわてて、二人はそちらに向き直る。先ほど、ケーツハリーに送られてきたリュフタは、
すでに話を聞く体勢になっている。
「す、すみません陛下……ι」
アルテマは、少し緊張しているらしい。
ダークメタルタワーのときと違い、直接セシルと会話しているからだろう。
「硬くならなくていいわ。極端な敬語じゃなくて、普通の大人と話す位でいいから。」
ローザが、苦笑しながら言った。その横で、カインが失笑している。
「なぁ、パラディンはん。なんでうちらを、ここに連れてきたん?」
「それは、リトラに話があるからなんだ。」
帰りの飛空挺で、セシルはリトラから簡単に彼とその仲間の紹介をされている。
しかし、旅の疲れと時間を配慮し、あまり詳しい事は聞かなかったのだ。
そのため、ゆっくりと会話できる今、聞こうとしているわけである。
「え、おれに??」
「ああ。」
リトラは、理由がさっぱり思いつかないのか、首をかしげている。
「君は、召喚士って言ってたな。」
リトラはうなずく。
「ミストの召喚士とは、大分髪や目の色が違うみたいだけど、
一体どこから来たんだ?」
「今まで、人間達の目には映らなかった幻の大陸にある、ルーン族の国リアや。」
『リア?!』
セシルたちの顔が、驚愕の色で染まる。
「リアのある大陸は、訳あって外界との接触を一時断ってたんだ。
だから、みんな知らなくてもおかしくないんだよ。あの周りは、元々海が荒いしさ。」
外界との接触を断っていた原因は、もちろんゼムスの陰謀だ。
争いに巻き込まれる事を避けるため、魔法で大陸ごと隠したのであった。
「そうなんだ……」
アルテマも、さすがに驚いたようだ。無理もない、彼女はただ、国の名前しか知らされていなかったのだから。
「そういえば、聞いた事があるな。いつだったか・・、そう。
昔、俺の父親がバロンの南に大きな大陸があると言っていたな。」
「多分、その大陸でしょうね。」
ローザが、考えながらそう呟いた。
「それで、リアって言うのはどんな国なんだ?
何か、ミストと関わりが・・?」
リュフタが、リトラに代わってうなずく。
「リアは……召喚士一族の発祥の地であり、唯一の国や。
ミストの召喚士は、各地に散った少数派のひとつに過ぎんのやで。
もっとも、噂だとあそこは絶えてしもうたらしいけどなぁ・・」
「ああ・・もう、ミストはリディアが最後なんだ。」
セシルは、少し陰のある声で言った。
「もっとも、リアの方だって召帝が居なくなって大騒ぎだ。
その上、国の宝もなくなった。あんまり平和じゃないんだよな。
で、それを追って俺とこいつは旅してるんだよ。
ついでに、幻獣も探してるんだけど。」
リトラが幻獣を探すのは、召帝探しに役立てるためと、自身の修行のためだ。
彼自身、強力な幻獣を自在に操る事を夢見ている。
「成る程・・その事件、もしかしたらあの塔の主に関係あるかも知れんな。」
「何でだ?」
リトラは、カインの発言の意味が読み取れないようだ。
「召喚士の国の宝というのだから、もしかすると、
とてつもない力でも秘めているのではないかと思ってな。」
宝については、リトラは説明する気はなかった。
国宝の秘密は、そうべらべらと口には出せないからだ。
故、それに関しては沈黙する。
「ともかく、あの塔の主が何者か、そして、あの塔を作り出した目的を一刻も早く解明しないと・・」
「そうね。取りあえず、リディアとエッジにも知らせましょう。」
そういうと、ローザは伝令役の兵に指令を出しにいった。
セシルとカインは、二人で短い会話を交わす。
そして、話が済むと、カインが言う。
「引き止めてすまなかったな、もう帰ってもいいぞ。」
この一言を聞いて、リトラとアルテマはこっそり安堵の息を漏らす。
「分かった。じゃ、さよなら。」
「失礼しましたー。」
「ほな、さいなら〜」
思い思いに挨拶すると、部屋を後にした。

「みんなー、これからどこ行くの?」
部屋を出て階段を下りてすぐに、フィアスが一行に駆け寄ってくる。
「お、フィアス。これからか?おれらは、これから町の方行くんだよ。」
「そーなんだ。じゃ、ぼくが案内してあげるね〜!」
フィアスは、張り切った様子で宣言してみせる。
リトラは少々うんざりした顔をするが、リュフタの「召帝情報探しの役に立つかも知れへんよ」。
と、言う言葉で渋々受け入れることに。
「じゃ、フィアス案内してくんない?」
「うん、と〜っておきのとこ教えてあげるね!!」
そう言って、一行と共にバロンの町へと向かった。



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今回から、一章に切り替わります。6話も序章に割くのは、うちくらいなものですね(苦笑。
ちなみに、リアのある大陸が魔法で隠れてた事になってるのは、
そうしないとFF4の話がおかしくなるからです。
元々あそこは、人間にほとんど知られていない大陸という設定もありますがそれもそのために。
それ以外にも色々設定ありますが……。中盤以降にならないと出てこないでしょう。